日本史を勉強するうえで、「一問一答で西暦年や歴史用語を覚えるのはダメ」とよく言います。それではどうしたらいいのか?という問いに対して、「因果関係が大事」「日本史は流れが大事!」などとよく言われるのではないでしょうか。
そのうち「因果関係」は歴史用語と同じように覚えられるし、わかりにくいことではないと思います。では、「歴史の流れ」とは何のことでしょうか?よくわかっていない受験生は多いのではないでしょうか。
そこで、日本史を整理して理解するうえで重要な「歴史の流れ」について考えてみたいと思います。今回の話を理解することで、日本史の入試対策の効率がよくなります!
「歴史の流れ」とは何か
まず、問題になってくるのは「歴史の流れ」とは何かです。
多くの人がなんとなく、自分なりにわかった気になっている言葉ではないでしょうか。それを「流れ」という感覚的な表現ではなく、もっと論理的に理解したいと思います。
下記の引用をみてみましょう。
「時系列に基づいて物事を論じていく歴史学では,ある時代・時期にはどのような特徴があり,前後の時代・時期とどのように違うのか,どのように変化したのかを明らかにすることが重要になる。これは一般に「時代区分」と呼ばれているのだが,この「時代区分」を行うということは,各時代の特徴をわかりやすいかたちで提示することでもあり,歴史の流れを体系的に把握するためにも不可欠だと言える。」
廣瀬憲雄『古代日本外交史』(講談社選書メチエ・2014年)より
「歴史の流れ」というのは、どのようにでも解釈できる表現です。それをもっと的確に表現するものが、「推移・変遷」です。
僕は大学受験の日本史において、受験生が理解しなければいけない、最も重要なポイントは歴史の推移・変遷だと考えています。それを丁寧に説明しているのが、上記の引用です。
まず、「時系列に基づいて物事を論じていく」のが歴史学ですが、それは「西暦年の順に歴史事項を羅列すること」ではありません。「歴史事項の羅列」を「歴史の流れ」と勘違いしている人もいるでしょう。
年表をながめていて日本史は理解できるでしょうか。あるいは、西暦年を覚えて日本史は理解できるでしょうか。「西暦年」については後述します。
「ある時代・時期にはどのような特徴があり、前後の時代・時期とどのように違うのか、どのように変化したのかを明らかにする」ことが「歴史の流れ」、つまり「推移・変遷」を理解することです。
日本史は「推移・変遷」が大事!
「時期区分」を考える
上記の引用では、「時代区分」を行うということは、各時代の特徴をわかりやすいかたちで提示すること、と言っています。
僕は「時代区分」より広い意味で、「時期区分」と言っています。なぜ「時期区分」という言葉を使うかというと、どの角度から歴史を見るかによって、区分の仕方が変わるからです。
「ある時代・時期の特徴」を理解するということは、必然的に前後の時期の違いが理解できているということです。「特徴」というのは「他と異なって特別に目立つしるし」(広辞苑・第七版)だからです。
前後の時期の違いを変化としてみていけば、必然的に推移・変遷、つまり「歴史の移り変わり」を整理していくことになります。
「歴史の移り変わり」=「推移・変遷」は以下のように整理できます。
Aの時期 ・・・[ 歴史事項 ]の特徴
あ↓ 変化 → 区切り
Bの時期 ・・・[ 歴史事項 ]の特徴
あ↓ 変化 → 区切り
Cの時期 ・・・[ 歴史事項 ]の特徴
「時期区分」をするためには、まず[ 歴史事項 ]の変化を考えなければいけません。変化したところに区切りが入ります。区切りを入れれば、Aの時期とBの時期という「時期区分」ができます。
区切りを入れて、Aの時期の特徴 → Bの時期の特徴 → Cの時期の特徴…と整理していけば、推移・変遷を理解したことになります。
では、これを具体化するとどうなるでしょうか。以下の表をみてください。
時代区分 | 文化区分 | |
---|---|---|
古代 | 古墳時代 | 古墳文化 |
飛鳥時代 | 飛鳥文化 | |
白鳳文化 | ||
奈良時代 | 天平文化 | |
平安時代 | 弘仁・貞観文化 | |
国風文化 | ||
中世 | 院政期の文化 | |
鎌倉時代 | 鎌倉文化 | |
(南北朝時代) | 室町文化 | |
室町時代 | ||
(戦国時代) |
これは教科書の区分を参考に古代・中世の時期区分を一覧にした表です。
まず、時代区分というのがあります。古墳時代・飛鳥時代・奈良時代・平安時代・鎌倉時代・室町時代と並びますが、何をもって区分しているのでしょうか。古墳時代は例外ですが、以降は政治の中心がどこにあったかによって区分しています。大きな時代区分だと、平安時代中期の摂関政治までが古代、平安時代末期の院政期からは中世になっていて、平安時代で古代から中世に変わります。
ところが、文化区分というのがあって文化で整理すると、飛鳥時代は、前半が飛鳥文化、後半が白鳳文化となります。また、平安時代は弘仁・貞観文化、国風文化、院政期(平安末期)の文化の3つに区分されます。つまり、政治を中心に見た場合と、文化を中心に見た場合とで時期区分が違うのです。
その他、時期区分をするときに「世紀」で区切ることもあります。例えば、古代・中世の対外関係は「世紀」で時期区分を考えると推移・変遷が理解しやすいです。
「8世紀」と問題文にあったら、時代区分では「奈良時代」、文化区分では「天平文化」の時期を示していますが、これが変換できない受験生は多いように思います。
あるいは「権力者」はどうでしょうか。天皇や将軍、近代になると、内閣ごとの区分は非常に重要です。内閣によって政策の違いが出てきます。
日本史の勉強では、まず歴史の移り変わり(推移・変遷)を理解して「時期区分」をおさえること、そのうえで時期ごとの歴史用語や歴史事項の因果関係を覚えることが重要です。
要は「いつの出来事かをしっかり頭に入れよう!」ということです。「歴史の流れ」「歴史を俯瞰する」などといったあいまいな言葉では整理できません。
これらの考え方は大学の入試に直結しています。それについては後編でまとめます。
「時期区分」=「いつ」の出来事かをおさえながら歴史事項を整理しよう!
「西暦年」の暗記は必要か
結論から言うと、「西暦年」の暗記を積極的にする必要はないと考えています。ちなみに「西暦年」を暗記することは「時期区分」をすることではありません。そして、覚えたところで推移・変遷は理解できません。
ただし、まったくいらないとも思いません。例えば、近代史でいうと、大日本帝国憲法が発布された年や日清・日露戦争が起こった年は知っておくべきでしょう。やはり理解するうえで大きなポイントとなるような歴史事項については、西暦年を覚えておくべきです。
要は「語呂合わせ」までして気合を入れて西暦年を覚える必要はないということです。教科書を読んだり、問題集を解いたりする過程でよく出てくる西暦年については、意識しておくようにすればいいだけです。そうすれば自然と覚えるでしょう。
「西暦年」だけを覚えるのは効率が悪いのです
そういえば、「年代」と「年号」を区別していない人は少なくないように思います。時に日本史を教えている先生でも使い方を間違っている人がいます。
「年号」というのは、「元号」ともいいますが、「昭和」「平成」などのことです。「年号暗記」と言われると、かなり違和感があります。確かに「年号」は重要ですが…
「年号暗記」という人は、おそらく「西暦年の暗記」のことを言いたいのだろうと思います。ただ、模擬試験で「年号を答えよ」という問いに、「西暦年」を解答している答案を見るたびに、日本史の講師として言葉を正確に使うことは重要だということを考えさせられます。
「年代暗記」というのは、一般的には「西暦年の暗記」のことを示していると思います。ただ、「1900年代」という時期の表し方もあります。「年代」という言葉も注意しなければいけません。だからこそ、僕は「年号」「年代」「西暦年」という言葉を使い分けています。
「年号」「年代」「西暦年」を間違えないように!
さいごに
少々、お堅い内容で「受験にこんなことが必要なのか!」、あるいは「要は頻出の歴史用語を覚えればいいんだろ?」と言いたい人もいるかと思います。
もしかして「推移・変遷が云々…」なんてのは大学に入ってから考えればいいなどと思ってはいませんか?
高校で頭に入れておきたい知識というのは、日本史に限らず、大学で様々な研究をするための準備だと考えてください。その学力を試すのが入試なのです。
そこで、次回は後編として「いつ」の出来事かと入試問題の関係について考えてみたいと思います。入試問題を分析することによって、日本史を整理する過程で何が必要かというのがよりはっきりしてきます。
次回は入試問題の出題から考えます