対策編 論述問題【京都大学の日本史】

前回は「合格点をとるための入試対策」ということで、対策の全体像を見ました。そのなかで、今回は京大に特化した論述問題について考えてみたいと思います。過去問で答案を作成する際の参考にしてください。

 

日本史論述については、すでに記事にまとめてあります。

京大の論述問題の特徴

まず、過去15年の出題を参考に論述問題の特徴について考えてみます。

【過去15年の論述問題の出題内容】

原始・古代 中世 近世 近現代
2020 田沼時代の財政再建(B) 明治,大正期の社会運動の展開(A)
2019 執権政治成立と北条時政,義時の役割(A) 石高制の成立過程とその機能(A)
2018 9世紀と10,11世紀の文化の対比(A) 幕末期の薩摩藩の動向(A)
2017 鎌倉時代の荘園支配の変遷(A) 田沼時代~幕末の仲間政策の変遷(A)
2016 南北朝,室町時代の禅宗(A) 第1次近衛内閣のとった政策(B)
2015 鎌倉~安土桃山時代の銭貨流通(A) 17世紀前半のキリシタン政策の変遷(A)
2014 9~10世紀の財源確保や課税方法(A) ニクソン・ショックと日本の対応(B)
2013 江戸後期の幕府財政の問題(B) 明治時代の初等教育制度(A)
2012 縄文~古墳時代の墓制(A) 平安末~鎌倉末期の日中関係(B)
2011 平安時代における浄土教の広まり(A) 江戸初期に幕府が出した法度(B)
2010 推古朝の政策とその特徴(B) 足利義満の時代(B)
2009 8~11世紀の国司制度の変遷(A) 江戸幕府の蘭学政策とその影響(A)
2008 鎌倉幕府における将軍のあり方の変化(A) 明治初期から日清開戦までの日清関係(A)
2007 縄文,弥生時代の生業の違い(A) 日本国憲法の制定過程(A)
2006 9世紀前半の政治,文化(B) 元禄~天明期の幕府の貨幣政策(A)

(A)=推移・変遷(対比) (B)=多面的説明 (C)=その他

一見してわかるのは、原始・古代から近現代まで時代による偏りがないところです。これは出題全体の分析でも触れましたが、第4問の論述問題においても同様です。

分野においては、文化史をメインテーマにした問題はやや少ないように思われますが、分野をまたいで考える問題があるので、論述問題で文化史はあまり出題されないとは言えません。

特に文化史は「文化作品を覚える」という学習のみで押し切ると、語句記述問題には対応できても、論述問題には対応できません。要するに、全時代・全分野について論述問題を想定した対策が必要だと言うことです。

出題の2つのパターン

上の表をもう一度見てください。中に(A)(B)という記号が入っています。これは論述問題の「問い」の形式を示したものです。実際は因果関係・特徴・対比など多くのパターンがあるのですが、京大の論述問題の場合、大きく2つのパターンに分類することができます。

一つは、推移・変遷を考えさせる問題、もう一つは多面的な説明を求める問題です。もちろん、論述の構成上の大枠のことであって、その中で因果関係なども考えていかなければいけません。具体的な考え方は後述します。

こういう書き方をすると、受験テクニック的なパターン化と思うかもしれませんが、それは違います。日本史で重要な考え方の一つが推移・変遷です。時間の縦のつながりと言えばいいでしょうか。また、同時代・同時期のいくつかの事項の関連を考えさせるのが多面的な説明です。横のつながりを考えさせるといえばいいでしょうか。

つまり歴史的な理解をするうえで、重要なことを問うているといえます。京大が受験生に求めているのは、いかに多くの西暦年や歴史用語を覚えているかではなく、歴史の基本的な見方だということです。

これら2つのパターンの論述問題がまとめられるようになれば、共通テストでも高得点が取れるはずです。以下、この2つのパターンについて考え方を整理します。京大受験生はこの2つのパターンが使いこなせるようになれば、答案を書く際に論述の構成ができるということです。

推移・変遷を考える問題

それでは「推移・変遷を考える問題」の具体的な構成方法を説明します。まず、構成の基本形です。

【問】
AからCの時期における[歴史事項]について説明せよ。

「時期」を抽象化したのは、時代区分・文化区分をはじめ、世紀・年代・権力者など様々な時期表現があるからです。

この場合、最も重要なのは時期区分をすることです。下に示したように、いくつかの時期に区切ってそれぞれの時期の[歴史事項]の特徴について説明します。

【構成】
Aの時期→Aの時期の[歴史事項]の特徴
Bの時期→Bの時期の[歴史事項]の特徴
Cの時期→Cの時期の[歴史事項]の特徴

ここで、なぜ時期を区切るのか考えてみましょう。

それは、Aの時期の[歴史事項]とBの時期の[歴史事項]、そしてCの時期の[歴史事項]には違いがあるからです。「特徴」とは他との違いです。

A・B・Cの時期の[歴史事項]の特徴、つまり時期による違いを説明することが、推移・変遷を説明することになります。時期の区切り方は[歴史事項]の設定によって変わるので一概には言えません。

 

それでは、京大の問題を使って具体的な構想メモを作ってみましょう。

【例題】
2012年 京都大学 第4問

カッコ内の語句をすべて使って,縄文時代から古墳時代のはじまりまでの墓や墓地の変遷を,貧富の差,身分の区別の発生や,社会の発展と関連づけて述べよ。なお,使用したカッコ内の語句には下線を引くこと。
(竪穴式石室,副葬品,屈葬,墳丘墓,前方後円墳,甕棺墓)

まず、設問の要求を整理します。

主題】
縄文時代(=A)から古墳時代(=C)のはじまりまでの墓や墓地[=歴史事項]の変遷
条件】
貧富の差、身分の区別の発生や、社会の発展と関連づけて…(a)
指定語句の使用

「縄文時代から古墳時代のはじまり」が時期の設定、そして、「墓や墓地」が歴史事項です。この問題には条件があるので、貧富の差・身分の区別の発生、社会の発展を(a)とします。今回は大きな構成の仕方のみを示したいので、指定語句は省略します。

【構成】
(Aの時期)縄文時代
[歴史事項]共同墓地…(a)貧富,身分なし

(Bの時期)弥生時代
[歴史事項]首長墓の登場…(a)貧富,身分の発生

(Cの時期)古墳時代
[歴史事項]古墳の築造…(a)ヤマト政権の成立

この構成でわかるように、縄文時代・弥生時代・古墳時代という3つの時期に区切っています。そして[歴史事項]にあたる「墓や墓制」については共同墓地→首長墓の登場→古墳と変遷していきます。

この問題はわかりやすいと思いますが、時期区分をしてそれぞれの時期の歴史事項の特徴を説明するという基本形はどの問題でも同じです。いくつの時期に区分できるかは設問の要求次第です。以上、推移・変遷を説明する問題について、答案の構成は理解できたでしょうか?

多面的な説明を求める問題

それでは、多面的な説明を求める問題の構成の仕方を考えてみましょう。構成の基本形です。

【問】
[歴史事項]についていくつかの側面から説明せよ。

この場合「いくつかの側面」とは何かを考えます。もちろん、いろいろな見方があるので、抽象化してみます。「いくつかの側面」を場合分けしてみましょう。

例えば、以下のようになります。

【構成】
Aの場合→Aの側面からみた[歴史事項]
Bの場合→Bの側面からみた[歴史事項]
Cの場合→Cの側面からみた[歴史事項]

A・B・Cを具体化すると、「政治面」「外交面」「経済面」「文化面」といった場合分けが一般的です。問題によっては、設問の「条件」で場合分けをしていることもありますが、京大の出題では受験生が考えないといけない場合が多いです。

多面的な説明とは、一つの[歴史事項]をいくつかの切り口から考えてみるということです。少なくとも、[歴史事項]について知っていることを箇条書きのように羅列することではありません。

 

それでは、具体的な問題をみて、構想メモを作ってみましょう。

【例題】
2010年 京都大学 第4問

足利義満の時代はどのような時代であったか。いくつかの側面から論ぜよ。

まず、設問の要求を整理してみます。わかり切っていても、このような作業では手を抜かないようにしてください。

主題】足利義満の時代について論じる
条件】いくつかの側面から

この問題では、設問の条件に指定がないので、政治・外交・経済・文化という形で場合分けします。ただし、足利義満の時代の政治・外交・文化は説明できると思いますが、経済はどうでしょうか。教科書を調べるとわかりますが、義満の時代と限定して経済を考えるのは難しそうです。そこで、政治・外交・文化面に場合わけして、それぞれの内容について考えてみましょう。

【構成】
[歴史事項]足利義満の時代

(Aの場合)政治面→室町幕府の全国支配安定,守護の統制,南北朝の合体,京都市政権など

(Bの場合)外交面→日明貿易・日朝貿易の開始

(Cの場合)文化面→北山文化の発展

構想メモは上記のようになります。それぞれの場合について、どこまで説明するかは200字以内の枠内で考える必要があります。多面的な説明はただ事項を羅列するのではなく、場合分けをして説明しましょう。

さいごに

以上、京大の論述問題の2つのパターンのまとめ方について考えてみました。この2つのパターンだけですべての問題の答案作成が可能!と言い切ることはできませんが、ほとんどの問題は推移・変遷と多面的な説明の考え方で構成できます。そのなかで、因果関係や特徴、対比などを考えなければいけない問題もあります。

論述の構成の仕方を理解したからといって、すぐに答案作成がスラスラできるわけでもありません。【例題】のようにわかりやすい問題ばかりではないですから、使いこなすためには練習が必要です

京大の過去問を使って、答案作成をくり返すことで徐々に構成ができるようになっていきます。問題をみて構成が素早くできるようになれば、答案作成時間も短くなっていきます。今回の記事を参考に京大論述を攻略してください!