2016年一橋大学、日本史論述問題の解答例

1律令は,皇帝という専制君主の法で,歴史的に形成された法典であった。律は刑罰,令は行政組織や民衆統治について定めた。2律令制下における郡司は地方豪族が世襲的に任じられ,国司の指揮下に伝統的な支配力により地方の実務を担っていた。平安中期には国司の長官である受領に権限が集中し,郡司は地域における支配力を失って地位を低下させ,受領のもとで駆使される存在となった。3武家社会の慣習である道理を取捨選択して法文化し,裁判の基準などを明確にした。守護や地頭の権限,知行年紀法などが規定され,当初は幕府の勢力範囲において適用されたが,やがてその影響は全国的に広がった。4公事方御定書。江戸幕府は民事問題での幕府による裁断を避けて和解を原則とし,刑事事件では幕府による裁断を重視していた。そのなかで金銭に関係する訴訟に対し,相対済し令を出して当事者間で解決させる一方,公事方御定書を制定して裁判や刑罰の基準とした。(400字)

 

1職工事情。全国の工場労働者の実態を調査した報告書。2工場法では少年・女性の就業時間の限度を12時間とし,深夜業を禁止した。しかし,適用範囲は15人以上を使用する工場に限られたうえ,製糸業では12時間以上の労働,紡績業では期限付きで深夜業を認めるなど,労働者の保護法として不十分なものであった。3繊維産業。工業生産額では重工業に対し,繊維産業を中心とする軽工業が多くを占めていた。繊維産業は安価な労働力である女性や年少の長時間労働や深夜業に支えられて成長した。製糸業は国産の原料・器械で生産した生糸を輸出して外貨獲得し,綿紡績業は1890年代には国産化を実現し,輸出を拡大した。一方で鉄鋼業や造船業など重工業も発達したものの,重工業製品の多くは輸入に依存していた。そのなかで政府は,工場法の制定による労働者の待遇改善が繊維産業における国際競争力の低下を招き,輸出の減少による国際収支の悪化につながると懸念した。(400字)

 

1①憲政党。②近衛文麿。2大蔵卿に就任した松方正義はインフレーションの収拾と貨幣・金融制度の確立を目的として経済政策を進めた。緊縮財政を実行して軍事費を除く歳出を抑制し,間接税の増税などによって歳入の増加をはかり,歳入の余剰で正貨の買入や不換紙幣の消却を行った。さらに中央銀行として日本銀行を設立して紙幣発行権を集中させ,銀兌換銀行券を発行して銀本位制を確立した。一方で財政整理と民間産業育成のため,官営事業の払下げを実施した。3普通選挙を実施し,日ソの国交樹立を実現することで活発化が予想される無政府主義や共産主義の活動を取り締まることを目的とした。4鳩山一郎内閣が目標とする憲法改正・再軍備を実現するためには国会議員の3分の2以上の議席が必要であったため,憲法改正に反対する日本社会党は改憲阻止に必要な衆議院の3分の1議席の確保を重視した。5中選挙区制であったが小選挙区比例代表並立制に変更した。(400字)