前回までは、2017年、2018年の試行調査から共通テストの特徴について考えてみました。今回はそれをふまえて、日本史の勉強法について考えてみたいと思います。
受験生は4月から計画的に勉強を進めてください。
基礎知識は重要
試行調査の問題をザッと見てみると、人物名や事件名など歴史用語が選択肢にありません。前回分析したように、資料の読解問題や歴史的な理解を意識した設問がたくさんあります。一見すると歴史を理解すれば、歴史用語を覚えていなくても解けるような錯覚をするかもしれません。
歴史用語を覚えていなくてもよいのでしょうか?
もちろん、その考え方は誤りです。選択肢のなかに歴史用語がなくても、人物や事件などの歴史用語を想起できなければ解けない問題が大部分です。資料の読解問題も、歴史的な知識がなくても、その場で資料を読めばできる!というわけではありません。歴史的な知識を前提として資料を読むのです。
以上から考えると、結局日本史の基礎知識を身につけるということでは、共通テストもセンター試験と同じだということです。
そこで、まずは原始・古代から近現代までの通史を一通り勉強しましょう。その際に学校や塾・予備校の授業の進度に合わせていてはいけません。4月から7月の間に自分なりにまとめてしまいましょう。この段階で「知識を完璧にする!」などと考えなくてもよいです。後々、模擬試験を受けて復習したり、問題演習をしながら知識を定着させていきましょう。
その際に、高校の教科書を使って勉強するのが一番いいのですが、短期間で通史を整理し、歴史用語を覚えるのには向いていません。そこで『時代と流れで覚える!日本史B用語』(文英堂)をおススメしておきます。使い方はこのブログの記事で説明しています。
とにかく、夏前までには基礎知識を頭に入れてしまいましょう。
夏以降の対策
試行調査以外に過去問が無いなかで、正直なところ、どのように対策をするかは悩ましいところです。過去問がない、まだ実施されていない、という制約がついているなかでの対策であることを前提とするので、ご容赦ください。
まず、塾や予備校の夏期講習で共通テスト対策を受講することをおススメします。そのうえで、各予備校の共通テスト用の模擬試験を受けてください。それによって、過去問がなくても、共通テスト型の対策をすることになると思います。そのなかで、自分が苦手な内容や問題を見つけたら、しっかり対策を取りましょう。
試行調査の問題については、早めに解いておきましょう。常に共通テストを意識したインプット・アウトプットをするためです。教科書や参考書を読んでいても意識はできるでしょう。
センター試験の過去問を使った問題演習
共通テストはセンター試験とは全く違う新しいテストではありません。センター試験での蓄積を踏まえて作成されているのです。要は使い方です。
主に2006年から2020年までの日本史B本試験を用意してください。すべてを解いてもよい練習になるとは思いますが、パーツごとに利用していけばいいでしょう。
第1問のテーマ史
共通テストでも第1問はテーマ史になりそうです。問題の傾向は少し変わりそうですが、どのようなテーマが扱われるかという点では参考になります。センターの過去問で第1問のテーマ史だけを解くことで、自分の苦手なテーマを見つけて整理しておくのもありでしょう。
資料読解問題への慣れ
共通テストの資料読解問題の方が、センター試験よりも難易度が高そうですが、資料の内容を理解して選択肢を絞り込むという作業は同じです。資料(史料)問題集を解いて慣れるという方法もありますが、あまりおススメはしません。空欄補充や頻出史料の問題をやったところで、知識の確認にはなっても、共通テストにおける初見資料の読解の訓練にはならないでしょう。
それならば、センター試験で過去に出題された初見資料問題をピックアップしてやってみてください。文字史料だけでなく、図版や表・グラフの問題などすべてです。簡単な問題が多いと思いますが、資料問題は慣れが必要なので、よい訓練になるでしょう。
「時期判断」問題の攻略
これが最も重要です。おそらく、共通テストにおいて、最も差がつくのが「時期判断」の問題です。高得点をとりたい受験生は必ず攻略してください。
その際、センター試験の過去問のなかで年代順配列問題が役に立ちます。次のような問題です。
- 2016年 センター日本史B 本試験
第5問 問4
下線部(c)[中央の制度改革]に関して述べた次の文Ⅰ~Ⅲについて,古いものから年代順に正しく配列したものを,下の①~④のうちから一つ選べ。あ28あ
Ⅰ 太政官制が廃され,内閣制度が定められた。
Ⅱ 天皇の最高諮問機関として枢密院が設置された。
Ⅲ 欽定憲法として大日本帝国憲法が発布された。① Ⅰ-Ⅱ-Ⅲ ② Ⅰ-Ⅲ-Ⅱ
③ Ⅱ-Ⅰ-Ⅲ ④ Ⅱ-Ⅲ-Ⅰ
⑤ Ⅲ-Ⅰ-Ⅱ ⑥ Ⅲ-Ⅱ-Ⅰ
解答①
年代順配列問題は日本史で重要な「時期区分」の考え方を身につけるために最適な問題です。「時期区分」というのは「西暦年の暗記」ではありません。時代区分・文化区分・世紀、あるいは、天皇・将軍・首相などの権力者などで区切って、それぞれの時期の特徴を理解することです。
実際に、以下のような形式で2018年の試行調査にも出題されています。
- 2018年 試行調査 日本史B
第2問 問4
古代から近世の日本においては,道路に関(関所)が設けられた。関についての資料Ⅰ~Ⅲと関の機能を説明した文ア~ウを組み合わせ,それを古いものから時代順に並び替えた場合,組合せとして正しいのもを,下の①~⑥のうちから一つ選べ。あ12あ
資料Ⅰ 条々
一,関所の事
右,宝戒寺(注1)造営料所として,甲斐国追分宿の関所を寄進せらるるなり。…
一,関賃銭の事
右,人別に三文,馬においては五文となすべし。…資料Ⅱ 覚
一,関所を出入る輩,乗物の戸をひらかせ,笠・頭巾をとらせ通すべき事
一,往来の女つぶさに証文引合せて通すべき事
一,相定る証文なき鉄砲は通すべからざる事資料Ⅲ 太師藤原恵美朝臣押勝の逆謀,すこぶる泄れたり。…即ち使を遣して三関(注2)を固く守らしむ。
(注1) 宝戒寺:鎌倉にある寺院。
(注2) 三関:伊勢国の鈴鹿関,美濃国の不破関,越前国の愛発関をさす。ア 主に軍事的機能を果たした。
イ 主に経済的機能を果たした。
ウ 主に警察的機能を果たした。①〔Ⅰ-イ〕→〔Ⅱ-ウ〕→〔Ⅲーア〕
②〔Ⅰ-ア〕→〔Ⅱ-ウ〕→〔Ⅲーイ〕
③〔Ⅱ-イ〕→〔Ⅲ-ア〕→〔Ⅰーウ〕
④〔Ⅱ-ウ〕→〔Ⅲ-ア〕→〔Ⅰーイ〕
⑤〔Ⅲ-ア〕→〔Ⅰ-イ〕→〔Ⅱーウ〕
⑥〔Ⅲ-イ〕→〔Ⅰ-ア〕→〔Ⅱーウ〕
解答⑤
共通テストの特徴でも参照しましたが、時期判断の問題はセンター試験以上に多くなりそうです。
センター日本史Bの本試験で、年代順配列問題は毎年、5問前後出題されています。年代順配列問題だけをピックアップして、短期間で一気に解いてください。その際、特に間違った問題について、西暦年を覚えるのではなく、どのような「時期区分」で考えればよかったのかを整理してください。日本史の理解が深まるはずです。
教科書の利用
あまり教科書について触れてきませんでしたが、やはり受験勉強において教科書は重要です。共通テストも教科書を参考にして作成されるでしょう。
教科書を一から読んで勉強していくのは困難です。これについては以前のブログの記事を参照してください。
教科書は問題を解いた後の復習で利用してください。間違った問題をチェックする過程で教科書を読んで下さい。必ず理解が深まります。また、共通テストで出題される内容を同時にチェックしていることにもなるので、効率よく勉強ができます。
さいごに
共通テストについては、受験生だけでなく、予備校講師も手探り状態です。ただ、受験生の不安を少しでも解消できるように、全力で対策については検討しています。実際に教材作成や模擬試験でも、試行調査を模した問題は何問も作りました。その過程で得た分析から今回の記事を書いています。
学習する内容がセンター試験と大きく変わるわけではありません。教科書の内容をしっかり消化して試験に臨めるようにしましょう。
今後も共通テストについての情報があれば、発信していく予定です。