いよいよ、2021年度の入試から「大学入学共通テスト(共通テスト)」が、実施される予定です。新型コロナ騒動で落ち着いて勉強ができない状況もあるなかで、不安に思っている受験生が多いだろうと思います。
そこで、3回にわたって共通テスト日本史の対策について考えようと思います。まず、1・2回は共通テストの特徴について考えます。3回目は勉強方法です。
正直なところ、本番が実施されていないので、よくわからないこともあります。そのなかで、2017年と2018年に実施された試行調査をもとに、過去のセンター試験の内容をふまえて、共通テストの特徴や対策について整理していきます。特に、2018年度の試行調査が本番に近いと推測されるので、そちらを中心に分析します。
資料の読解問題が増加
まず、ザッと見て目につくのが、資料を読解する問題がセンター試験よりも増えたことです。文字の史料だけでなく、写真・地図・表・グラフなどもあり、しかも資料の内容を考えないと、知識だけでは解けない問題が多くなっています。センター試験でも出題されていましたが、質・量ともに強化されています。
センター試験とは一味違う文章正誤問題
センター試験といえば、マーク式ゆえの文章正誤問題でしょう。一般的には「正しいもの」「誤っているもの」を選ばせる問題です。
しかし2018年度試行調査では、定番の「正しいもの」「誤っているもの」という表現が少なくなっています。例えば「最も適当なもの」を選べといった表現が見られます。何が違うのでしょうか。
まず、センター日本史Bの問題を見てみましょう。
- 2016年度 センター日本史B 本試験
第4問 問1 問題番号19
下線部(a)に関連して,幕府と諸大名の関係について述べた文として正しいものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
① 大名に,京都への参勤交代を命じた。
② 大名を監察するために,目付をおいた。
③ 有力な外様大名に,老中の職を独占させた。
④ 武家諸法度を制定し,諸大名にその遵守を命じた。
解答④
④が正文で正解です。①は「京都への」が誤り。参勤交代は江戸です。②は「目付」が誤り。大名を監察するのは大目付です。③は外様大名が誤り。老中は譜代大名が就任します。
いずれも選択肢の内容そのものが誤っており、一問一答的な用語知識で解答できるでしょう。
次に、試行調査の問題を見てみましょう。
- 2018年度 試行調査 日本史B
第6問 問1 問題番号29
発表に備えてAさんは下線部ⓐについて調べた。この人物の説明として最も適当なものを,次の①~④のうちから一つ選べ。
① 民権論や国権論の高まりの中で,政治小説を著述した。
② 近代化が進む中で,知識人の内面を国家・社会との関係で捉えた。
③ 都会的感覚と西洋的教養をもとに,人道主義的な文学を確立した。
④ 社会主義運動の高揚に伴って,階級理論に基づいた作品を残した。
※下線部ⓐ=「夏目漱石」
解答②
①は政治小説、③は白樺派、④はプロレタリア文学の説明で、いずれも夏目漱石の説明ではありません。②が適当なものになります。考えてみましょう。センター試験と試行調査は何が違うのでしょうか?
センター試験における「正しいもの」「誤っているもの」の「誤っているもの」というのは、文章そのものが誤りです。
例えば、「森鴎外が『破戒』を著した」は、『破戒』が島崎藤村の作品だから誤りと判断できます。2017年本試験からの問題がそれに該当します。つまり、センター試験は一問一答的な暗記知識でも、70%ぐらいの問題は正解が出せたのです。
しかし、共通テストでは、①〜④の選択肢はすべて正しい文章で、「問い」に対して「最も適当なもの」を選ぶことになります。
センター試験にも類似のパターンはあり、いずれも正答率が低い問題が多かったことを考えると、共通テストでも難問になると思われます。さらに、以下の問題を見てください。
- 2018年度 試行調査 日本史B
第6問 問4 問題番号32
Bさんの発表に対して,下線部©を転換の理由とすることに疑問が出された。そこでBさんがさらに調べたところ,吉野の理論について,現在の日本国憲法の基本原理と比較すると時代的な限界があることが分かった。その時代的な限界を示す吉野の言葉の要約を,次の①~④のうちから一つ選べ。
① 民本主義は,国民主権を意味する民主主義とは異なるものである。
② 民本主義は,日本語としては極めて新しい用例である。
③ 民本主義は,政権運用の方針の決定が民衆の意向によるということである。
④ 民本主義は,民衆の利益や幸福を求めるものである。
解答①
この問題はどうでしょうか。選択肢①〜④は「民本主義」の説明として、いずれも「正しい」選択肢になりますが、「問い」に対して「最も適当な」選択肢は①になります。
これらの問題からわかることは「一問一答」的な暗記知識ではなく、歴史の理解が求められていることです。
このタイプの問題が多いことが、センター試験との大きな違いと考えています。「資料問題が多い」ことに意識がいきすぎると、共通テストの本質を見誤ることになるのではないでしょうか。
歴史用語が少ない
歴史的な理解を問う設問が多く、資料の読解問題が多いからでしょうか。試行調査の問題を見ると、全体的に選択肢のなかに歴史用語が少ないように思われます。特に、人物名や事件名など歴史学習でまず覚えるような用語が少ないのです。
だからと言って、歴史用語を覚えなくていい、というわけではないので注意が必要です。歴史的な理解が重視されているというのは、歴史用語を覚えなくていいと同じ意味ではありません。
それでは今回はここまでにして、次回「共通テスト対策 2020年版〜共通テストの特徴 後編〜」で、続きをまとめたいと思います。